実験核物理・理論核物理・宇宙物理理論合同セミナー

演題:rプロセス元素の起源と進化:連星中性子星合体の重力波・キロノヴァ観測以後
講師:西村 信哉 氏(理化学研究所 開拓研究本部 研究員)

日時:2021年11月26日(金) 15:00〜16:30
場所:ウエスト1号館W1-D-315(Zoom配信も予定)

概要:rプロセスは、鉄より重い元素(trans iron)の合成過程の一つであり、特に、金やプラチナ、超寿命アクチノイド元素(ThとU)の主要な起源である。自然界におけるrプロセスは、中性子星が関与する爆発的な天体環境において、中性子捕獲が爆発的に速く進むことで起こる。rプロセスにまつわる様々な謎を解明するには、関連する宇宙物理と原子核物理の精密な理解が必要である。rプロセスが起こりうる天体現象は、超新星爆発や連星中性子星の合体であるが、それらの天体モデルは確立されてない。さらに、rプロセスの元素合成「経路」は、核図表において安定核から遠く離れた中性子過剰側になるが、これらは最新の原子核実験でも未到達の領域である。天体現象と原子核のともに理論の不確定性も大きい。天文学においては、さらに、rプロセス元素は、銀河宇宙の進化史に特徴的な痕跡を刻むため、銀河進化の研究においても重要な対象でもある。

本講演では、まず、GW170817とキロノヴァ観測について簡単にまとめ、連星中性子星合体でのrプロセス元素合成シナリオが観測と整合的であることを示し、銀河の化学進化において中心的な役割を担うことを紹介する。加えて、それにもかかわらず、銀河の化学進化などに未解明問題が残されていることを指摘する。天体モデル、銀河科学進化に関する研究について、講演者らの研究を中心にいくつか紹介しつつ、天文学におけるrプロセスの理解の進展が原子核物理の研究にどう影響を与えるのかも議論する。